やわらか3D共創コンソーシアム(会長:古川英光 山形大学教授)は4月5日、東京都江東区の日本科学未来館 イノベーションホールで、臼井昭子氏(山形大学 産学連携准教授)を司会に、「6周年記念シンポジウム」を開催した。
今回のテーマは「やわらか3Dシンフォニー」。テーマにはシンポジウムをさまざまな楽器(奏者)が集まることにより素敵な音楽を奏でるオーケストラに見立てて、研究開発についても1人/1団体ではなく複数集まることによって、より素敵で面白いことができるのではないかとの趣旨から、話題提供を指揮にさまざまな研究開発要素、人で奏でる「シンフォニー(=サプライチェーン)」を届ける狙いで開催された。
当日はまず、イントリックス ShareLab事業部 事業開発ディレクターの丸岡浩幸氏が挨拶に立ち、「古川先生と当コンソーシアムが掲げる“材料30年を3カ月に”というように、3Dプリンティングは世の中を変えるポテンシャルを持っている。ジョブズの言葉“Stay hungry, stay foolish”にならって、当コンソーシアムは“Stay hungry, stay additive”で行こう」と開会宣言を行った。
続いて、在日アイルランド商工会議所・アドバイザーでLe Cœur社CEOでフレンチシェフの杉崎 宏氏が、「私は、食事と文化の関係を考察するガストロノミーを追求している。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のテーマは食と健康を掲げているが、『ミシュランガイド東京2024』で東京が17年連続で、世界で最も星付きの飲食店が多い都市に認定されているように、アイルランドを含め万博の参加国は、日本との間で食文化を絡めたいと考えている。アイルランドも日本のおもてなしに感銘を受けた国の一つであり、引き続き日本の食・文化と欧州の食・文化の懸け橋になりたい」と開会の挨拶を述べた。
さらに会長挨拶に立った古川英光会長は、「このコンソーシアムが大好きで、幸せの源の会と言える。創設のころは3Dプリンターブームで、さまざまな方からの共同研究の話があり、いろいろな方の3Dプリンターやゲル、食品に対する思いに効率よく応えたいとの考えから、いろいろな方とオープンに一緒に最新のことを話し合える場として、やわらか3D共創コンソーシアムを設けた。最初、試行錯誤で2年間活動し、3年目からコロナ禍に入ったが、オンラインでの会合を円滑に頻繁に開けるようになった。病院関係者にも参加してもらった経緯から、帝人にポリカーボネートを支給してもらって3Dプリンターでフェイスシールドを造形、医療現場の危機的状況に対応するという経験も得られた。こうしたことを契機に会の活動が活発化し、昨年からは5部会で各8回ずつ、計40回も開催し、メンバー間、部会間の友好関係も深まっている。3Dプリンターの市場についての懸念もあるが、時に大きなパワーが生まれて3Dプリンティングの花畑が広がるという現象が起きている。今回の、やわらか3Dシンフォニーというタイトルには、各自が得意とするパートを受け持って皆が集まるとプロが見ても楽しめる素晴らしい交響曲や大合唱になるという、当コンソーシアムがそういうものでありたい、との思いを込めた。いろいろな方がそれぞれに技能やテクノロジー、興味や熱意をもって集まって、一つのシンフォニーを作り出せることがこの会の魅力だと思う。世界に伍する研究会たるべく、国際的な活動も進めていく。国際舞台で日本のゲル3Dプリンティング技術などをアピールすることで、世界中の優秀な方々が我々のコンソーシアムに参加していただき、にぎやかに楽しめるコンソーシアムの在り方を追求していきたい」と語った。
続いて2件の話題提供が行われた。
まず話題提供①として、トヨタ自動車 先進技術統括部 主査/担当部長の岡島博司氏 が、「全固体電池から苺へ?」と題して、スペイン・バルセロナからオンラインで講演を行った。自ら携わってきた希少資源代替プロジェクト、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業や次世代エネルギー・社会システム実証企画、豊田市低炭素社会システム実証などについて概説した後、近年携わっている工場のカーボンニュートラルと農業の生産性向上を両立するための、トヨタ自動車2工場でのトマトとイチゴの栽培技術実証について紹介した。カーボンニュートラル2035年実現に向け、工場排熱・排CO2を栄養源として利用した植物栽培の技術実証を企画する背景としては、自動車の国内生産縮小に伴う工場スペースの有効活用と向上従事者の雇用延長、高齢者活用がある。また、農業従事者の高齢化が著しく進む中、デジタル化・スマート化で農業の底上げを図る狙いもある。天候と市場を予測してのトヨタ生産方式(TPS)を用いて、計画的栽培と高付加価値農作物の安定生産をクラウド制御。低コスト排熱利用による初期投資の低減、TPS・育種による農業生産の効率向上、作物制御モデルの知財権利化など、設備売りきりでなくサービスモデルを確立することで、日本の農業の国際競争力向上を向上させ、食料安全保障確保を実現しつつ、衰退する日本の農業を成長産業都市新たな輸出産業としたい、と総括した。
続いて話題提供②として、三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主席研究員の吉本陽子氏が、「3Dプリンティングへの期待」と題して講演した。日本で技術が先行しながらも市場拡大が伸び悩む3Dプリンティングの市場拡大のポイントとして、①ビジネスモデルに3Dプリンティングを組み込む:3Dプリンティングの威力を発揮できるサービスモデルを考える、②社会システムの規制・ルール・制度に3Dプリンティングを組み込む:3Dプリンティングそのものを売るのではなく3Dプリンティングを使わざるを得ない世の中の仕組みに持っていく(課題は出口)、③全ての技術の売り込み先で最重要視されている、商品・サービスを通じて得られる体験価値「UX(ユーザーエクスペリエンス)」を実感する3Dプリンティングとなる:ユーザーが3Dプリンティングに対し“使いやすい”、“面白い”といった体験価値を持つかどうかが、売れる・売れないを左右する重要なポイント(例えばアップルはマニュアルなしで直感的に扱えるスマートフォンなどUI(ユーザーインターフェイス)、UXの技術開発に巨額の投資をしている)の三点を挙げ、3Dプリンティングの市場拡大への期待を込めた。
話題提供の後は食品部会、医療部会、ゲル部会、モビリティ(構造)部会、ソフトマシン部会の5部会から2023年度の活動報告と2024年度の活動構想が発表され、佐々木 直哉 氏(山形大学 客員教授/立命館大学 客員教授)をモデレータ、吉本陽子氏、田中 浩也 氏(慶応義塾大学 教授/SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボ 代表)、古川英光氏、小川 純氏 (やわらか3D共創コンソーシアム・技術リーダー/山形大学 准教授) の4名をパネリストに、パネルディスカッション「やわらか3Dシンフォニー」が開催され、3Dプリンティングのビジネスモデル・サービスモデルを作るための手法や方法論について議論した。
パネルディスカッションに続いて、閉会の挨拶に立った⾼橋⾠宏 氏(山形大学 オープンイノベーション推進本部 副本部長)は、「当コンソーシアムで見られるようなワクワクする奇想天外な発想、シンフォニーの中でも一人の奇想天外な発想によって、さまざまな面白さが出てくるのではないか、と思っている。ジョブズの言葉“Stay hungry, stay foolish”にならって、“Stay hungry, enjoi sympony”で行こう」と述べ、参加者一同がその言葉を斉唱し、閉会した。