エボニックはこのほど、炎が出ない、煙が出ない、毒性ガスを発生しない、全く新しい航空機内装向けコンポジット部品用発泡コア材「ロハフォーム(ROHAFOAM®)」を日本で上市した。なお日本では、ポリプラ・エボニックがロハフォームを取り扱う。
航空機の部材には、⽶国のFederal Aviation Administration(航空宇宙局/FAA)が定めた規則であるFAR 25.853に基づき、⽤途に応じた燃焼試験FST(Flammability難燃/Smoke発煙/Toxicity毒性)が要求される。この規則は北⽶以外の地域でもそのまま採用されているため、航空機業界でのビジネスにおいては、⽇本を含め世界中で避けて通れない要求事項となっている。その上で、航空機は燃料消費を抑える、排出
CO2を削減するため、機体は十分な強度を持たせつつも、できるだけ軽量化することが求められている。
機内にはファースト、ビジネス、プレミアム、エコノミーの座席、ギャレー(食事準備の場所)やラバトリー(洗面所)、機内の荷物⼊れ(オーバーヘッドビン)、機内壁、窓ガラスとその枠組みなど、多くの金属やプラスチックで作られた部品が備え付けられている。空中では搭乗客は逃げ場がないため、機内で使⽤可能な材料は、仮に材料に着火しても、すぐに鎮火し、炎が出ない、煙が出ない、毒性ガスを発生しない点が非常に重要となる。
昨今の機体ではカーボンコンポジットの使⽤が増加し、機内の設備での軽量化も大きなテーマの一つとなっており、軽量化には軽量高剛性なコンポジットや、コア材をカーボン繊維やガラス繊維の布地で挟んだサンドイッチ構造が多用される。
蜂の巣のような六角形や、その他同一の立体図形(セル)を隙間なく並べた構造体のハニカムコアとは、軽量、高強度、高剛性、衝撃吸収性が高く、断熱性能があるなど優れた性質を有し、FST規格に合格するハニカムコアが航空機の内装⽤コンポジットコア材とし採⽤されてきた。
しかし、金属箔やアラミド繊維紙で構成されたハニカム構造を内部に持つハニカムパネルは、パネルを成形した時に形状がほぼ決まってしまうといった成形性に課題を抱えている。しかも、部品の曲率に限界があるため複雑な形状に対応するのが難しいとされる。また、側面側の剛性が弱く、スキンの貼られている面内方向と比べて、スキンの側面の面外方向は、薄いコア材のみでは強度が低く、部品最外部の六角柱の空隙を埋めるなどの側面の補強も必要で、重量が増加する原因となっていた。
また、ハニカム構造の場合、六角柱の壁面が薄く、コア材は空洞であるため、締結加工を施すことができない。加えて、ハニカムコア使⽤においてよく知られるテレグラフィング効果(ハニカムパネル製造時に表面スキンが凸凹になる効果)が発生する場合があり、加飾や印刷が必要な場合、スキン面にパテ埋めなどを施し、平らに整える必要がある。このようにハニカムコア材は多くの工程を必要とするため、成形コストが高くなる傾向があった。
一方で、圧力隔壁などに使⽤される発泡コア材としては、エボニックのロハセル®がある。ロハセルは航空機、ロケット、レーシングカー、CT機のベッド、スピーカー振動板など、優れたコンポジットコア材として多種にわたる⽤途に使⽤されている。ハニカムコアとは異なり、100%独立気泡の構造を持つロハセルはどの方向からの力も等しく受け止める等方性な材料で、また、ロハセルは独立気泡カット表面のクレーター状になった気泡(セル)に熱硬化性樹脂が入り込み、アンカー効果による表皮材との強い密着が実現できる。そして表面のクレーター状の気泡(セル)にのみ熱硬化性樹脂が⼊り、それよりも内側の気泡(セル)には入り込まないため、熱硬化性樹脂の使⽤量が少なくて済み、結果として軽量化の実現に貢献している。このロハセル®は残念ながらアクリル系の発泡体であるためFST規格を通らず、機内の部品の軽量化のためには使⽤されることはない。
これに対し、エボニックのロハフォームはまったく新しい発泡コア材で、PEI(ポリエーテルイミド)を原料とし、押出成形し、それをカットしたファイバー/ペレットに温度をかけて微発泡させ、その粒子を金型に充填し、金型に熱を加えて粒子を発泡させて部品を作る。
想定される⽤途は機内シート(ファースト、ビジネス、プレミアム、エコノミー)、オーバーヘッドビン、ラバトリーの壁、ギャレー、搭乗口周り、パイロットシート、窓枠のパネルなどで、それ以外にも、UAM(Urban Air Mobility)向けのバッテリケースや内装壁、シートなども考えられる。現在さまざまなメーカーにおいてロハフォームを使⽤した製品開発が進んでいる。
他のコア材を使⽤した最終製品で比較すると、製造コスト(加飾フィルムや塗装も含む)が抑えられるため、安くなることが想定される。さらに、金型内にインサート部品(ねじ締結のための土台など)をセッティングし、その周りに微発泡粒子を充填した後に金型を閉じ、熱をかけて発泡部品を製造すると、そのインサート部品は適切な位置に設置されているため、出来上がったコンポジット部品を削ってインサート部品を挿⼊する工程が不要になる。
ハニカムコアとは異なり、ロハフォームは等方性の性能を示すコア材であるため、薄い部分から厚い部分が連続しているような複雑形状の部品の製造に適しており、その表面の曲率には制限がない。
さらにロハフォームの表面は非常に平らで、表皮材とよく接着する。そしていわゆるハニカムコア使⽤においてよく知られるテレグラフィング効果は出現しない。テレグラフィング効果による表面のへこみがないため、加飾や印刷前にパテ埋めが不要となり、多くの人手による作業、そのための時間や材料を減らすことができる。
実際のところ、ハニカムコアサンドイッチとロハフォームサンドイッチ部品の重量比較は製品形状によるため難しいが、ハニカムコアで使⽤される表皮材の接着のためのフィルムや、強度が必要な部分や端部のパテ埋めが不要のため、ロハフォームサンドイッチ部品は、ハニカムコアサンドイッチ部品よりも多くの重量を削減できる可能性がある。
ロハフォームは熱可塑性の発泡体で、理論的には機械的なリサイクルが可能とされている。そしてそのリサイクル品で作られた発泡部品もFSTの規格に合格する部品となっている。