第33回散乱研究会が開催

2021年12月10日(金曜日)

 散乱研究会(事務局:大塚電子)は11月19日、「第33回散乱研究会」をオンライン開催した。

大塚電子 散乱研究会 月刊ソフトマター メカニカル・テック社
散乱研究会のHP(https://www.scattering.jp/

 

 光散乱法は1944年のデバイの論文を契機に高分子やコロイドの研究に応用され始め、その後1940年代後半にジムらが高分子溶液の光散乱測定を始め、高分子溶液物性の主力研究の手段となり、日本でも1960年頃から光散乱測定装置の開発が始まった。ところが、光散乱法を利用するには散乱理論の知識が不可欠で、またその測定も容易でなかったため、装置の普及はそれを専門とする大学や一部の企業の研究室に限られていた。

 そうした状況下で、この光散乱法を一人でも多くの人に知ってもらおうと、加藤忠哉氏(当時、三重大学教授)を中心とした世話人の熱意と、我が国の光散乱測定装置メーカーの草分けである大塚電子の支援により「散乱研究会」が1989年に発足、第1回研究会が東京で開催された。

 33回目となる今回の研究会は、木村康之氏(九州大学)、寺尾 憲氏(大阪大学)、則末智久氏(京都工芸繊維大学)、川俣 純氏(山口大学)を世話人として、大塚電子の新製品紹介を含めて、以下のとおり開催された。

• 光散乱基礎講座「動的光散乱法」則末智久氏(京都工芸繊維大学)…本講演の動的光散乱法(DLS法)は、散乱光強度の時間変動を解析することで、物質の大きさ(粒子径)を調べる方法である。DLS法の基礎と応用について説明。はじめに光散乱現象の基礎を紹介し、静的光散乱法(SLS法)とDLS法の違いに触れながら、事前に必要な情報が溶媒の屈折率と粘度のみで、非接触測定で高感度(短い測定時間)、測定可能対象の大きさの範囲が広い(1nm~5μm)といったDLS法の有用性について述べた。その後、DLS法の理論、実験方法、データ解析法について、わかりやすく説明した。さらに、応用研究の例とその解析方法など、最近のトピックスを紹介した。

•「 動的光散乱法による高分子ゲルの協同拡散係数の解析」酒井崇匡氏(東京大学)…動的光散乱法は高分子網目の協同拡散係数の測定にしばしば用いられる。本講演では、均一なネットワーク構造を制御した高分子ゲルの拡散係数について紹介した。拡散係数は高分子と溶媒の混合による寄与と弾性による寄与に分解することができ、弾性の寄与は絶対温度の線形関数であり、大きな負の定数を持つことが分かった。この特徴は、最近発見された「負のエネルギー弾性」と形式的には同じであり、静的構造と動的特性の間に自明でない類似性があることを示している、とした。

•「 精密ラジカル重合を用いた刺激応答性架橋高分子の設計」伊田翔平氏(滋賀県立大学)…高分子ゲルをはじめとする架橋構造を持つ高分子材料の機能化には、構造の精密な設計が求められる。伊田氏らは精密ラジカル重合技術を基盤として、架橋構造の工夫やモノマー連鎖の制御に着目したゲルの機能化に取り組んでいる。また、ミクロゲル状のコアに多数のポリマー鎖が結合した多分岐星型ポリマーについての研究も進めている。本講演では、精密ラジカル重合の基礎的内容について概説するとともに、特徴的な架橋構造の導入に基づくヒドロゲルや多分岐ポリマーの動的機能に関する研究成果について紹介し、散乱法技術を用いた構造解析の可能性について述べた。

•「 動的光散乱法のステイト・オブ・ザ・アート」岩井俊昭氏(東京農工大学)…動的光散乱法は、比較的簡単なホモダイン光学系によってシングルナノから10μmまでの広い粒子径レンジで測定可能な計測法として確立されている。近年、高濃度懸濁液の計測に低コヒーレンス干渉散乱、高吸収性粒子の計測に共焦点顕微散乱、散乱粒子の物質同定を行うためにラマン散乱を利用するなど、新しい動的光散乱法が提案されている。本講演では、講演者と共同研究者の研究を中心に、動的光散乱法のステイト・オブ・ザ・アートについて紹介した。