第32回散乱研究会が開催

2020年12月04日(金曜日)

 散乱研究会(事務局:大塚電子)は11月20日、「第32回散乱研究会」をオンライン開催した。

 光散乱法は1944年のデバイの論文を契機に高分子やコロイドの研究に応用され始め、その後1940年代後半にジムらが高分子溶液の光散乱測定を始め、高分子溶液物性の主力研究の手段となり、日本でも1960年頃から光散乱測定装置の開発が始まった。ところが、光散乱法を利用するには散乱理論の知識が不可欠で、またその測定も容易でなかったため、装置の普及はそれを専門とする大学や一部の企業の研究室に限られていた。

 そうした状況下で、この光散乱法を一人でも多くの人に知ってもらおうと、加藤忠哉氏(当時、三重大学教授)を中心とした世話人の熱意と、我が国の光散乱測定装置メーカーの草分けである大塚電子の支援により「散乱研究会」が1989年に発足、第1回研究会が東京で開催された。

 32回目となる今回の研究会は、木村康之氏(九州大学)、寺尾 憲氏(大阪大学)、則末智久氏(京都工芸繊維大学)、川俣 純氏(山口大学)を世話人として、大塚電子の散乱製品の紹介を含めて、以下のとおり開催された。

・光散乱基礎講座「静的光散乱法」寺尾 憲氏(大阪大学)…静的光散乱法は、光学顕微鏡の回折限界よりは小さいが、原子・分子よりは大きい、コロイド分散系や高分子溶液中における分散粒子の重さやサイズを計測する手法として広く用いられている。本基礎講座では、静的光散乱法の測定原理や、静的光散乱実験の実施例や解析手法について解説した。

・「放射光X線を用いた水溶液中の高分子ミセルの構造解析」秋葉 勇氏(北九州市立大学)…高分子ミセルは薬物送達システム(DDS)のキャリアーとしての利用が検討されている。DDS粒子に対しては機能制御の観点から、精密な構造解析が求められる。顕微鏡法や計算化学の進展により、複雑な分子集合構造を可視化することが可能になっているが、溶液中での構造をそのまま観測するには散乱法が不可欠である。特に、放射光を光源に用いた小角X線散乱はナノ粒子の構造解析には最適である。本講演では、放射光X線小角散乱(SAXS)法を用いた希薄溶液中の高分子ミセルの構造解析や異常小角X線散乱(ASAXS)法を用いた高分子ミセルの構造解析などを紹介した。

・「ナノ構造体を用いたナノ物質光マニピュレーション法の開発」東海林竜也氏(神奈川大学)…局在表面プラズモンによる増強電場を利用することで、従来法の集光レーザー型光ピンセットよりも効率よくポリスチレンナノ粒子やDNAなどのナノ物質を光捕捉できる。しかしながら、このプラズモン光ピンセットは光熱効果による熱泳動により捕捉が阻害されることがある。これに対し、研究グループではノンプラズモニック・ノンサーマルな新奇光ピンセット「NASSCA光ピンセット」を開発した。本講演では光ピンセットによる分子操作に向けて、プラズモニック構造体による増強電場を用いたプラズモンナノ構造光ピンセットと、研究グループが独自開発した半導体ナノ構造を利用したNASSCA光ピンセットを紹介した。

・「光散乱法によるゲル研究の歴史と展望」柴山充弘氏(総合科学研究機構 中性子科学センター(CROSS))…ゲルは古くから日常生活に欠かせない物質であり材料であった。ゲルは、生まれながらにしてさまざまな不均一性を内包しており、それがゲルの物性を左右していた。光散乱法はゲル研究にすこぶる有力な手段であり、ゲルの不均一性を定量化する方法などが開発されている。一方で、最近、不均一性を持たない理想的ゲルが開発された。本講演では、光散乱によるゲル研究の歴史を概観したほか、最近のトピカルな研究の紹介を通じて、光散乱法、特に動的光散乱法がゲル研究に非常に適していること、また、散乱法の原理と理論を理解することで、さらなる応用が期待されることなど、将来への展望を語った。
 
 

第31回散乱研究会
写真は、昨年の第31回散乱研究会の現地開催のようす。
今回もオンライン開催ながら多数が参加・聴講した