高分子学会年次大会開催、CNF関連の発表が増加

2018年05月30日(水曜日)

 第67回高分子学会年次大会が5月23日~25日、名古屋市の名古屋国際会議場で開催された。今回もまた、セルロースナノファイバー(CNF)の実用化に向けた研究開発の発表が多く見られた。

 今回は、招待講演として磯貝 明氏(東京大学)による「セルロースナノファイバーの高分子材料への応用最新動向」が行われたほか、CNF関連で以下の発表があった。

第67回高分子学会年次大会

<環境と高分子:環境調和高分子>セッション

・「バクテリアセルロースナノファイバーを導電性高分子で被覆した高強度ハイドロゲル電極の開発」
東垣達也・麻生隆彬・宇山浩(阪大院工)

 生体情報を抽出または生体内代謝をエネルギーに変換するためのウェアラブルデバイス時代は目前のため、従来の金属や導電性高分子電極に代わる生体親和性の高い電極、すなわち柔軟で体内に埋め込む安全性を有し、優れた物質透過性をもつハイドロゲル電極の開発が求められている。バクテリアセルロース(BC)はセルロースナノファイバー(CNF)からなり、99%以上の含水率を有する生体適合性ハイドロゲルに位置づけられる。本研究では、BCのCNF表面を導電性高分子で選択的に被覆し、高導電性かつ高強度なハイドロゲル電極を開発した。

 水に膨潤したBCゲルをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶媒置換したのち、塩化アクリロイルと反応させることでアクリロイル基導入BC(AcBC)を得た。次に、AcBCをp-スチレンスルホン酸ナトリウム水溶液に浸漬し、開始剤に過硫酸アンモニウム(APS)を用い、70℃で24時間反応させることでBCのCNF表面にポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)をグラフト化した (BC-g-PSS)。

 その後、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)の水-DMF(1:1)分散液に浸漬し、酸化剤にAPSを用い、室温で48時間反応させることで目的の導電性ハイドロゲル(BC-g-PSS/PEDOT)を得た。続いてBC-g-PSS/PEDOTの圧縮強度と導電率を測定し、加えてBCの積層構造を利用した導電率の異方性についても検討した。

 走査型電子顕微鏡観察(SEM)によりBCのCNF表面がPEDOT/PSS層で被覆されていることが分かった。すなわち、グラフトされたPSSがEDOTの重合時のテンプレートとして機能していることが示唆された。四端子法による導電率測定から、最大で0.3S/cmの高い導電率を示す一方で、含水率も92%以上保持していた。持続長の長いCNFに沿ってPEDOT/PSSを導入することで、高導電率かつ高含水率を達成した。BCゲルはCNFからなるため、水の保持力が低く、非常に弱い応力による圧縮でも水を放出して収縮する。しかし、BC-g-PSS/PEDOTの圧縮試験による力学強度評価では、圧縮歪み90%における最大応力はBCの約60倍に向上し、BCゲルにPSSを導入することでBCゲルの脆弱性を改善できた。また、BCゲルのCNFの積層構造に由来した導電率の面依存性も確認した。

・「セルロース系高分子電解質の特徴を活かした導電性ナノファイバーの創製」
庄司英一・大野良記・池内拓海(福井大院工)、畑下昌範(若狭湾エネ研)

 本研究では高性能ナノファイバーであるセルロースナノファイバーに電子伝導層として導電性高分子を検討して導電性ナノファイバーの創製を目指している。得られた導電性ナノファイバー構造体について、分光スペクトル測定(XPSなど)により電子伝導層の導入機構や構造について議論した。

 CNF マットを調整し、フレキシブルな導電性ナノファイバーの創製のために、導電性高分子としてポリピロール(PPy)やポリアニリン(PANI)とナノファイバーとの複合化を検討した。導電性高分子は酸化重合条件で導入した。導電性高分子の成長機構を確認するため、導入量の異なる複合体を作製し、それぞれについてSEMによる表面の形態観察、FTIR,XPSスペクトル測定を行った。

 PPyの導入を繰り返すとPPyのドープ状態を示す=N+H-結合(400.1eV)やC-N+結合(401.1eV)に由来するピークが現れ、ピークもブロード化した。また、C元素およびN元素に関するXPSは連続的にピーク強度が変化していることや、PPyがCNF膜に徐々に導入されていることなどが確認された。

<生体高分子および生体関連高分子:糖鎖・多糖・糖鎖高分子>セッション

・「酸化セルロースナノファイバーの水熱処理による自立可能な強度のハイドロゲル調製」
末永 信・長田光正(信大繊維)

 TEMPO酸化触媒は選択的に結晶性セルロースの最外層にあるC6の水酸基をカルボキシル基に変換する。中和後の水中では、解離したカルボキシル基の静電反発がNF間に働くため、低出力の機械的粉砕によって完全解繊したNFを得ることができる。このTEMPO酸化セルロースNF(TOCN)は直径3~5nm、長さ数百nm以上と高アスペクト比である。TOCN分散液は単に絡み合っているだけであるため、流動性がある。建築の足場材料などへの応用を前提とした材料設計を考えるとき、柔軟かつ形状安定性に優れたハイドロゲルに変換することが望ましい。そのためには、TOCN同士を架橋する必要がある。従来法では、化学的架橋、電解質の混合、塩酸への浸漬が行われているが、本研究で報告する方法は、上記のような添加物を一切使用せずに、TOCNに熱と圧力を加えるだけで、自立可能な強度を有するハイドロゲルを調製することに成功した。

 TOCN分散液(日本製紙製)、濃度1wt%のサンプルをそのまま使用した。TOCN分散液約3mLを内容積6mLのSUS316製の反応器に導入し、密閉した。予め160℃に加熱した溶融塩炉に浸漬することでゲル化を開始。任意の加熱時間後、水道水に浸漬することで、ゲル化を停止した。反応管からハイドロゲルを回収し、金網上で少量の蒸留水を滴下することで洗浄した。ハイドロゲルのキャラクタリゼーションのために、透過率測定、圧縮試験、FE-SEM観察、XRDパターン測定、TGA分析、FT-IRスペクトル測定、伝導度滴定、HPLC分析を行った。

 TOCN分散液を160℃で20min以上加熱することで、反応管内部の円柱型を保った状態で自立するハイドロゲルに変換できた。ハイドロゲルは加熱時間とともに分解物が生じるため茶色く変色するが、蒸留水に3日間浸漬することで容易に脱色し、透明なハイドロゲルとなった。ハイドロゲルの圧縮弾性率は加熱時間とともに増大し、かつ脱色後はさらに圧縮弾性率が増大した。FE-SEM観察の結果、TOCNの直径は加熱時間とともに増大していた。これらの結果は、水熱処理によってTOCN同士が接着し、網目構造が発達することで、ハイドロゲルの強度が増大したことを示している。XRDパターン測定とTGA分析の結果、ハイドロゲルを構成しているTOCNは加熱時間とともに純粋なセルロースへと変化していくことを明らかにした。これは、TOCN最外層に存在するグルコース-グルクロン酸塩共重合体構造が水熱処理によって分解され、TOCN内部の結晶性セルロースが暴露したことを示している。また、FT-IRスペクトル測定と伝導度滴定の結果、原料TOCNに存在するグルクロン酸塩の約48%が水熱処理によって加水分解したことを明らかにした。さらにHPLC分析から、加水分解されたグルクロン酸塩は上澄み液に拡散することを確認した。

 以上の結果から、水熱処理によるハイドロゲルは、1:水熱処理によるTOCN最外層の分解、2:グルクロン酸塩の減少によるTOCN間の静電反発力の減少、3:結晶性セルロース間に働く引力による網目構造の形成、というプロセスによって形成されたと考察した。

<高分子機能:機能性ソフトマテリアル>セッション

・「セルロースナノファイバー/エポキシ複合材料の力学特性に及ぼす表面修飾の影響」
水野菜央・佐合将太朗・永田謙二(名工大院工)

 本研究では、高強度を有するCNF/エポキシ複合材料の開発を目的として、CNFとマトリックスポリマー間の相溶性向上を試みた。種々の酸塩化物を使用してCNFを表面修飾し、表面修飾CNFを充填したエポキシ複合材料の力学特性に及ぼす表面修飾の影響について比較、検討を行った。

 セルロース水分散液をアセトンおよびジメチルアセトアミド(DMAc)中で遠心分離機とホモジナイザーによる分散を繰り返し行い、セルロースDMAc分散液になるように溶媒置換を行った。その後、共沸蒸留による水とアセトンの除去をDean-Stark法で行い、60に冷却後、ピリジン153.75mmol(12.5mL)を加えた。1時間撹拌後、各種酸塩化物(ブチリルクロリド、ベンゾイルクロリド、ジフェニルアセチルクロリド)をそれぞれ30.75mmol添加し、同温度で24時間反応を行った。反応後、セルロース誘導体を精製するため、エタノールおよびアセトン中で分散と遠心分離を数回行った後、凍結乾燥し、粉体試料を調製した。

 エポキシ樹脂に対して未修飾あるいは表面修飾CNFの配合割合が0,1,2,3wt%になるように秤量し、エポキシプレポリマー中にCNFを加え、100のオイルバス中で加熱、撹拌を行いながら溶液に分散させた後、充分脱泡を行った。硬化剤として4,4'-ジアミノジフェニルメタン(DDM)を加え、型に流延し、前硬化として80で2時間、後硬化として180で2時間オーブンに入れ、複合材料を作製した。

 IR測定によって、CNFの表面修飾を確認した。また、CNF/エポキシ複合材料の引張弾性率は表面修飾CNF充填率の増加によって向上した。また、引張強度は、1wt%CNFを充填した時に極大値を示した。これは、CNFを表面処理することで、マトリックス中でCNFの分散性が改善されたためと考えられる。一方、未修飾CNFを充填した試料は、曲げ弾性率、曲げ強度共に著しく低下した。