理化学研究所、皮膚上および体内埋め込み型センサー用の極薄伸縮性導体を開発

2023年01月30日(月曜日)

 理化学研究所(理研)開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室の福田憲二郎 専任研究員(創発物性科学研究センター 創発ソフトシステム研究チーム 専任研究員)、染谷隆夫 主任研究員(同チームリーダー)の国際共同研究グループは、開発した厚さ約1.3μmの伸縮可能な導体が皮膚および臓器(神経)へ良好に密着し、生体情報を取得するためのセンサー用電極として使用可能であることを実証した。

 本研究成果は、今後、生体組織に匹敵する柔らかいセンサーを開発することで、伸縮性が高く耐久性に優れた次世代生体適合性エレクトロニクスの応用につながるものと期待できる。

 今回、国際共同研究グループは、厚さ約1μmのシリコーンゴム基板上にマイクロクラック構造を持つ金を成膜することで、伸縮性に優れた導体を開発。この極薄伸縮性導体は導電性を維持しながら、約300%の引張ひずみを示し、ヒトの皮膚やラットの神経と良好に密着する。薄いイオン伝導性ポリマー層と組み合わせると、水中でも皮膚に強い接着性を示し、手洗いなどの日常生活や水泳などの激しい運動中でも心電図を安定に計測できた。また、神経へ電気的刺激を与え、生体信号を高い信号対ノイズ比で取得するといった、体内埋め込み型の電極としての可能性も実証した。

 本研究は、科学雑誌『Nature Electronics』オンライン版(2022年11月21日付け)に掲載された。
 

理化学研究所 ヒトの皮膚(左)やラットの神経(右)に貼り付けた極薄伸縮性導体(金色の部分) 背景 月刊ソフトマター
ヒトの皮膚(左)やラットの神経(右)に貼り付けた極薄伸縮性導体(金色の部分)
背景


 本研究では、厚さ約1μmという極薄のゴム基板上に伸縮性導体を形成することを可能にした。この極薄伸縮性導体は、皮膚上で安定に機能する生体信号取得センサーおよび、体内埋め込み可能なニューラルインターフェースとして利用できる。さらに、ソフトロボティクスやMEMS(微小な電子機械システム)などの他の分野においても、有望なアプリケーションを見つけられる可能性がある。

 ただし、極薄伸縮性導体の制限の一つは引き伸ばされると電気抵抗が増加する(電流が流れにくくなる)ことで、これは固体導体に本質的なもの。しかし今後、伸縮性ポリマーや液体金属などを用いた新素材と組み合わせることで、電気抵抗の変化を最小化することが可能。また、構造工学的手法を利用し機械的特性をさらに改善することで、電子デバイスと生体とのインターフェースがさらに改善されると期待できる。

 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業新学術領域研究「弾性グラディエントナノ薄膜を利用した自由変形可能な太陽電池の創成(研究代表者:福田憲二郎氏)」、同基盤研究(S)「拍動する心筋細胞シートを用いた伸縮性多点電極アレイによる薬物反応の評価(研究代表者:染谷隆夫)」による助成を受けて行われた。