住友ベークライトは、フェノール樹脂の特徴を維持したまま、使用時のVOC、環境負荷を低減することを目的とし、シート状の熱硬化性レゾール型フェノール樹脂を開発した。従来の有機溶媒を使用した液状レゾール型フェノール樹脂と比較して、VOC削減による作業環境の改善が見込めるとともに、塗工の安定性など機能面での向上も期待できる。主力の自動車分野をはじめ、今後各種分野に熱硬化性の環境対応プラスチックとして提供する。
熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂は、非常に高い耐熱性を示し、200℃以上の高温、長時間使用される用途では100年以上前から使用されてきた。フェノール樹脂の中でもレゾール型は、多くは溶液状で取り扱われ、各種繊維やフィラーなどの基材と高い接着性を示すため、有機繊維、金属、ガラスなど様々な基材のバインダーとして使用されている。しかし、溶液タイプのレゾール型フェノール樹脂を使用すると、有機溶媒系では設備の防爆対策やVOCといった作業環境が問題となる。これに対し、比較的環境負荷の小さい水溶液系のフェノール樹脂も使用されるが、保管中の粘度上昇や水溶性の低下など、保管や使用時の管理が難しくなる課題があった。
このような溶液状フェノール樹脂の課題に対し同社では、特殊なフェノール樹脂が、特定条件で加工することで柔軟な未硬化のシート状として取り扱えることを見出し、VOC削減、保管安定性の向上が見込めるシート状フェノール樹脂の開発を進めてきた。
一般的なレゾール型フェノール樹脂溶液は、そのまま溶媒を乾燥させると粘着質な高粘度液体となり、このままではシート形状にすることはできない。熱硬化性であるため、板上に薄く塗工して乾燥(硬化)させると、一見シート状の薄膜硬化物も得られるが、フェノール樹脂硬化物の特徴そのままに硬くて脆い薄膜となり、当然シート状の未硬化樹脂として取り扱うことはできない。
これに対し同社ではフェノール樹脂の変性技術を生かし、少ない変性量でフェノール樹脂の特徴を強く残しつつ、シート化可能なフェノール樹脂を見出した。このフェノール樹脂溶液を離型フィルム状に塗工し、乾燥させることでシート状のフェノール樹脂となる。
一般的な有機溶媒系の溶液状フェノール樹脂には50~70%の有機溶剤が含まれているが、本フェノール樹脂シートに含まれるVOC成分は5%以下と、溶液状フェノール樹脂と比較して1/10以下にVOCが低減されている。
フェノール樹脂シートには様々な使用法が想定されるが、一例としてプラスチック部品-金属やプラスチック製品同士の接着剤がある。被着体にフェノール樹脂シートを貼り付け、別の被着体を押し付けて熱プレス等で加熱硬化することで高い耐熱性を持つ接着面が得られ、250℃以上の高い耐熱性が要求される部材では有用な接着剤となる。鉄板同士を接着した場合、溶液状のフェノール樹脂と比較して10%以上高い接着強度を示すことが確認できている。これは溶液の塗工と比較して、均一な膜厚のシートを貼付することで塗工膜の安定性が向上するためと考えられる。
耐熱性については、一般的な熱硬化性接着シートと比較した場合、エポキシ樹脂系接着シートでは250℃の熱処理後には接着強度が30%程度まで低下してしまうが、このフェノール樹脂接着シートは250℃熱処理後も95%以上の接着強度を維持することが可能となっている。
接着以外の使用方法としては、含浸用としてプリプレグやFRPのバインダーも想定される。フェノール樹脂シートを基材に重ねて溶融、硬化させることで、有機溶剤の使用や設備制限なしにプリプレグを作製できる。