三洋貿易は2月5日、東京都千代田区の同社セミナールームにおいて、Xenocs社の最新小角X線散乱装置(SAXS)の技術を1日で学べるスペシャルプログラム「小角X線散乱法 技術セミナー」を開催した。
Xenocs社はILL(ラウエ・ランジュバン研究所)を原点として2000年に設立されたフランス南東部グルノーブルに拠点を持つSAXS専門のトップメーカーで、フランス放射光施設ESRFとも関係が深く、Xenocs社製品にはESRFの高度な技術が活かされている。また、高品質のX線光学コンポーネントを世界中の放射光施設に納入しており、豊富な経験と知識を基に、最高レベルを追求する研究者に放射光施設並みのSAXSを提供している。
当日は、以下のとおり講演がなされた。
・「Xenocs社USAXS/SAXS/WAXSシステム概要と特徴」Frederic BOSSAN氏(Xenocs社 Managing Director)…同社の概要とベース技術である小角X線散乱(SAXS)法の特徴、主力製品について紹介した。SAXS測定は非破壊、試料の調整不要で、nmレベルからμmレベルまでの幅広いレンジでゲルや固体、液体、ペーストなど様々な試料のサイズや形状、内部構造、粒径分布、周期構造・配向性などを、In situ(温度、せん断速度、湿度、引張力といった実際の使用環境)で評価でき、走査電子顕微鏡(SEM)やラマン分光分析装置、核磁気共鳴装置(NMR)などの解析評価手法を補完できる。主力製品である0.5nm~300nmのスケールの物質の構造情報を提供する縦型エントリーモデル「Nano-inXider」と、0.5nm~5μmのスケールの物質の構造情報を提供し超小角 X 線散乱(USAXS)測定が可能な横型ハイエンドモデル「Xeuss 3.0」の概要とメリットなどを紹介した。
・「Nano-inXiderを用いた食品関係測定実例の紹介」Pierre PANINE氏(Xenocs社 Senior Application Scientist)…食品科学と食品の品質管理のためのSAXSの適用の有用性について紹介した。SAXSを用いることによる材料科学的なアプローチとして、食品加工プロセスの改善や食感の向上、食品中の各種成分の消化性、食品添加成分の適切な移送・放出の制御の検討、有効成分のカプセル化の検討などを実現できる。チョコレートやココアバター、マヨネーズ、フレッシュクリーム、シェアバターといった各種食品の熱処理過程での脂質相のSAXS/広角X線散乱(WAXS)解析を実施。たとえば熱履歴に非常にセンシティブなチョコレートでは、SAXS解析とWAXS解析を組み合わせることで、各テンパリング(加熱・冷却といった調温操作)において、おいしさを左右する各種物性を支配するココアバターのラメラ相の相転移を完全に把握できることなどを示した。
・特別講演「Nano-inXider及びUSAXS/Xeuss 3.0による香粧品・医薬品解析事例の紹介」小倉 卓氏(コスモステクニカルセンター 兼 東京理科大学客員准教授)…SAXSユーザーとしての同氏の長年にわたる豊富な経験経を踏まえて、物質中の電子密度分布情報を通じて試料の構造情報を与えるSAXSが、高感度測定が必要な熱力学的非平衡系である濃厚/希薄分子会合体分散系の散乱測定や、形状・大きさや可溶化状態、電子密度の解析が必須な分子会合体溶液の内部構造解析など、溶液系で重要な測定解析手法であることを紹介した。各種解析法のうち、濃厚/希薄分子会合体分散系の解析が可能で構造因子パラメータが算出可能(アカデミック~アプリケーションまで展開可能)といったメリットを持つ一般化逆フーリエ変換法(GIFT法)に注目。同法を用いることで、ミセルでは形状・大きさや粒子間相互作用、可溶化位置などの、ベシクルでは2分子膜・水層の厚みなどの、タンパク質では分子のパッキング状態などの内部構造情報が得られるとした。また、Xeuss 3.0、Nano-inXiderを用いて実際に同氏が測定したミセルやエマルション/ベシクル、プロテインなどのSAXS/WAXS/USAXS解析事例について示した。たとえばミセル中における各香料の可溶化状態(存在状態)を解明することで用途に応じて最適な界面活性剤を選択できた事例を紹介、2D-NMRでの補完解析を併せて実施し解析結果の整合性を確認した。散乱等の界面科学的手法を駆使することで、香粧品や医薬品、化成品、トイレタリーなどの“製品の質”を解析、さらなる新製品の設計が可能になると総括した。