イグス、デジタルプレスカンファレンスを開催

2020年05月26日(火曜日)

 イグスは5月20日、ドイツ本社からのライブストリーミング配信による「デジタルプレスカンファレンス」を開催した。当日は、北川邦彦社長とドイツ本社フランク・ブラーゼCEOの挨拶・事業展開に関する報告がなされたほか、「ハノーバーメッセ2020」の開催中止により実展示で披露できなかった100点超の2020年新提案商品が、ドイツ本社内に特設されたブースでのバーチャル展示会を通じて披露された。
 

イグス:デジタルプレスカンファレンス

 

 当日はまず北川社長が、「ハノーバーメッセ2020は残念ながら新型コロナウイルス(Covid-19)の感染拡大の影響を踏まえて中止となったものの、代わって本日は、同展で披露するはずだった新提案商品すべてを展示している、ドイツ本社施設内に特設した広さ400㎡の特設展示会場にバーチャルワープしていただき、イグスのモットーである“技術を上げて(寿命を延ばして)コストを下げる”に基づいて開発された100点を超える革新的な新提案商品をご覧いただきたい」と挨拶。日本においては第5工場が新設されるなど3年間で在庫量が倍増しているほか、人員も増強してきており、出荷やアフターサービスも迅速な対応がなされていることや、イグスの無給油のベアリングやスマートプラスチック、3Dプリンティングなどが、メンテナンスフリーや予知保全、開発期間短縮などを重視する日本の市場にフィットしており、チェーンフレックスを中心に売上が堅調に伸びイグスのワールドワイドのビジネスに貢献していることを報告した。
 

北川氏
北川氏

 

 さらにブラーゼCEOが挨拶に立ち、「2019年度は米国、韓国、中国の新工場を設立、ロジスティックス拡大によりユーザーの近くで納期短縮などサービス向上を図れる体制を整備した。また、470万ユーロを投じてケミカルリサイクルの技術を持つスタートアップ企業Mura Technology社への投資を開始。ユーザーからイグス製、他社製を問わず使用済みの樹脂製品を引き取り、オイルにリサイクルするルートを確立している。昨年は厳しい経済状況にもかかわらず、前年比2%増の7億6400万ユーロの売上高を達成した。これはユーザーのコスト削減や装置のメンテナンスフリー化などに貢献するモーション・プラスチックが採用され続けている賜物。Covid-19感染拡大に伴う大変厳しい状況にはあるものの、受注については概ね安定傾向にあり、引き続き増加に転じるものと信じている」と語った。将来に向けた重要投資を継続していく考えで、ケルンの本社敷地内で二つのサイトをつなぐトンネル掘削工事や新たなビルの建設を予定しているほか、モーション・プラスチック製品を迅速・簡単・確実に供給する目的でデジタル化への投資も継続していることなどを報告した。
 

ブラーゼ氏
ブラーゼ氏

 

 続いて、バーチャル展示会を通じて、製品分野ごとに新提案がなされた。

 

ケーブル保護管「エナジーチェーン」の新提案商品

・ガイドチャンネル不要のエネルギー・データ伝送システム「オートグライド5」

 狭くコンパクトなスペースでのエネルギー・データ伝送、自動倉庫などの高速レーン移動では、バスバーシステムが多く採用されているが、メンテナンス費用が高いこと、原則電力の伝送にのみ適用可能であること、接触不良を回避するための定期的なクリーニングが必要であるなどのデメリットがあった。この課題解決のためイグスは、ケーブルを最高速度4m/s、最長ストローク80mで、ガイドチャンネルなしで安全にガイドする「オートグライド5」を開発した。通路に設置するロープまたはレール上に簡単に取付けが可能で、低価格、メンテナンスフリーが図れるうえ、ガイドチャンネルシステムに比べ取付け時間が約88%短縮でき、バスバーシステムの代替品として利用できる。

 オートグライド5は、付属の金属製ロープを床面に敷設するだけで取り付けられる。オプションで樹脂製ロープまたはレールによるガイドも可能。チェーンリンク下側の中央にガイドエレメントが装備されているため、エナジーチェーンは確実にロープ上に留まる。また、耐摩耗性を確保しながらチェーン上部走行部が下部走行部の上を正確に走行するよう、射出成形された、くし形のオートグライド専用クロスバーが取り付けられているため、ガイドチャンネルを不要としている。
 

オートグライド5
オートグライド5

 

・スリップリング不要のケーブルガイド「eスプール フレックス」

 生産現場で工具や操作盤を自在に使用するには、適切な長さのケーブルやホースが必要になるが、ケーブルが室内のフロア一面に無防備に散乱していると、躓く危険性がある。スリップリング付きのケーブルリールはエネルギー伝送のためのソリューションの一つだが、新しいケーブルを装備した状態でのパッケージ品としてのみ入手可能なことが多く、また大量データの高速伝送が求められる場合は非常に複雑になる。こうした点からイグスは、ウォームガイドを装備したケーブルリール「eスプール フレックス」を開発した。ケーブルの巻取りにスリップリングが不要なため、バスケーブルやエアー・液体用のホースもスムースにガイドする。また、ユーザーは既存のケーブルをこのシステムに簡単に取付けることができるため、費用を節約できるだけでなく、作業場の安全性も高まる。さらに、新しく採用したウォームガイドにより、素早い設置が可能。ケーブルやホースを収納したウォームガイドは、数ステップで簡単にeスプール フレックスの外側と巻取ハウジングにはめ込める。これにより、ケーブルを自在に取り回すことができ、使用後は素早くきれいに収納できる。

 手動でケーブルを巻取る低コストバージョンと、ブレーキとスプリング駆動のリターン機構を備えた自動巻取りバージョンの2種類を用意。ケーブル交換はいつでもスピーディーに行え、ケーブル直径5~8mmで最長15m、ケーブル直径8~11mmで最長10m、ケーブル直径11~15mmで最長5mの3種類のサイズをラインナップしている。
 

eスプール フレックス
eスプール フレックス

 

・クリーンルーム対応製品の開発強化

 クリーンルーム対応の新提案としては、個別に接続可能なケーブルチャンバーで構成され各チャンバーに1本以上のケーブルを挿入することができる「eスキン フラット single pods」と、やわらかい材質で<200mmの低い取付高さ、ジッパー式開閉により組立・取付が迅速な「eスキン ソフトSK20シリーズ」を開発。いずれもクリーンルーム対応、ISOクラス1に準拠している。

 イグスではこのほど、こうしたクリーンルームでの使用に適したモーション・プラスチック製品の開発を促進する目的で、フラウンホーファーIPA(生産技術・オートメーション研究所)の協力のもと、ISOクラス1準拠のクリーンルームシステムを備えた独自のクリーンルームラボを設置した。粉塵対策の最高レベル基準を満たさなければならない半導体製造向けのケーブル保護管「エナジーチェーン」や可動ケーブル「チェーンフレックス」などの製品を実条件下で試験することが可能で、新製品の開発期間短縮が図れる。
 

ISOクラス1準拠のクリーンルームシステムを備えた独自のクリーンルームラボ
ISOクラス1準拠のクリーンルームシステムを備えた独自のクリーンルームラボ

 

スマートプラスチックの新提案

・故障を予知してメンテナンス推奨時期を知らせる「イグリデュール製isenseすべり軸受」

 「ハノーバーメッセ2019」でプロトタイプとして紹介した、状態監視・寿命予測データを収集するセンサー類「isense」付きのすべり軸受を、今回標準製品として①イグリデュール材質の中で最も汎用的な材質「イグリデュールG」、揺動・回転機構向けの「イグリデューP210」、汎用性の高い長寿命タイプの「イグリデュールJ」、食品機械向け、FDA・食品衛生法準拠の「イグリデュールA180」、建設機械や農業機械など高荷重条件向けの「イグリデュールQ2E」という5種類のイグリデュール材質で開発した。上記すべての製品で内径20mm、30mm、40mmの3サイズを用意、その他のサイズや材質は今後拡充していく予定。食品産業や繊維機械、フォークリフト、建設機械等でインテリジェントなisenseすべり軸受を使用することで、摩耗状況を監視し故障を予知してメンテナンス推奨時期を通知する、耐久性に優れた無潤滑ソリューションを実現する。

 isenseすべり軸受のシステム構成要素として、耐油性・耐クーラント性のPUR 外被ケーブルを1m、2m、5m、10mの4種類の長さで、コネクタは2種類を用意、センサーで計測されたデータは様々な方法でユーザーのシステムに統合できる。イグスではデータ取得用に3種類の装置を提供しており、ユーザーは要望に応じて最適なデータ取得方法を選択できる。している。一つ目はユーザー自身が手動でデータを取得する方法、二つ目はすべり軸受の状態を赤/緑で表示するディスプレイ付制御ユニットを機械に取付ける方法。三つ目は予防保全のためのデータを集中管理するコミュニケーションモジュール「icom.plus」に接続する方法で、ラジオモジュールが通信モジュールに無線でモニタリングデータを送り、その後データはIoT、クラウドシステム、ユーザーのネットワークシステムに統合される。
 

イグリデュール製isenseすべり軸受
イグリデュール製isenseすべり軸受

 

ローコストオートメーションの新提案

・ロボット用7軸システム

 Covid-19における省人化、自動化の要請に応えられる低価格ロボット、低価格自動化システムといったローコストオートメーションとして、「ハノーバーメッセ2019」で披露した6軸低価格ロボット「ロボリンクDP」などと組み合わせることで、ロボットの7軸として機能する直動システムのアダプターキットを開発した。7軸目としてストローク長さ3000mmまで可能な「リニアアクチュエータZLW-20」を使用することで、ロボットの作業領域を最大4倍まで拡大できる。リニアアクチュエータZLW-20、ロボリンクDPともに完全無潤滑で稼働できるため、潤滑メンテナンスフリーで長期にわたりスムースな動作を実現する7軸ロボットが構成できる。

 今回さらに、ガントリー、ロボリンク、パラレルリンクロボットをプログラミングするためのソフトウェアと、それらロボットを制御するためのコントローラをセットにした「イグスロボット制御システム」を用意した。オンラインで無料プログラミングソフトが利用可能で、誰でも使える直感的な操作性を実現している。

 日本においてもCovid-19の感染拡大に伴いマスク製造やフェイスシールド製造といった医療分野への異業種からの参入が進んできているが、生産システムの構築を急ぎたい、作業者なしの自動化を低コストで進めたいといったニーズから、マスク製造工程における検査・仕分けのためのピック&プレースや、包装作業などに上述のローコストオートメーションの採用が進んできている。
 

6軸ロボリンクDPと7軸目の直動機構リニアアクチュエータZLW-20アダプターキットの組み合わせ
6軸ロボリンクDPと7軸目の直動機構リニアアクチュエータZLW-20アダプターキットの組み合わせ