1.NEDO 先導研究プログラム/マテリアル・バイオ革新技術先導研究プログラム「革新的異種柔軟材料3D/4Dものづくり基盤の構築」
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、「NEDO 先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム」のうち「マテリアル・バイオ革新技術先導研究プログラム※」に係る公募を実施、多くの提案について審査が行われた結果、山形大学、九州大学、立命館大学、サンアロー、LIGHTzの研究開発実施体制による研究テーマ「革新的異種柔軟材料3D/4Dものづくり基盤の構築」が採択されている。
「NEDO先導研究プログラム/マテリアル・バイオ革新技術先導研究プログラム※」事業は、我が国の新産業創出に結びつく有望なマテリアル・バイオ分野の中長期的な課題を解決していくために必要となる技術シーズ、特に事業開始後15~20年以上先の社会実装を見据えた、革新的なマテリアル・バイオ分野の技術シーズの発掘・育成を行い、マテリアルおよびバイオ・イノベーションを加速する研究開発を後押しすることで、将来の国家プロジェクト等につなげていくことを目的としている。
マテリアル分野ではデジタル技術の一つである3Dプリンティングを前提とした研究として、4Dプリンティングやソフトロボティクスの研究が国際的に急伸しているものの、その前提となる3Dプリンティングにおいては、異種材料への対応が遅れており、多くの材料研究者や機械工学研究者が活用することができていないという課題がある。これに対し、このマテリアル・バイオ革新技術先導研究プログラム※として採択された、山形大学 工学部 古川研究室(主宰:古川英光教授)が主導する研究テーマ「革新的異種柔軟材料3D/4Dものづくり基盤の構築」は、3Dプリンターを使用したデジタルファブリケーションにおいて、柔軟性と高次の機能を持つ4Dプリント材料の吐出条件を学習し、材料ベースの最適設計を目指すもの。
本プログラムでは、目標として、①3種類のインク混合における独立した化学反応、②最適濃度と反応特性で選んだ造形方式でのプリント、③造形途中の問題発生時に条件修正を提案、④6種の造形方式とゲルの組み合わせで造形レポート作成、⑤4Dプリントシミュレーターと最適化手法で応用試作品、を掲げており、最終的に、多くの材料研究者や機械工学研究者が利活用可能なソフト材料の3D/4Dプリンティングを推進できるプラットフォームを整備することを目指す(図1は、具体的な研究開発項目)。
2.材料開発を3カ月に、そして誰もが利用できる3D/4Dプリンティングに!
3Dプリンティング技術が紫外線やUV光などを利用し液体樹脂などを硬化させて成形させる技術であるのに対し、4Dプリンティング技術とは、3Dプリンターで作った製品が、さらに外部からの刺激(光や温度、水など)を受け、時間をかけて、やわらかく自らの構造を変化しながら何かの機能を果たす造形技術を指す(図1右下のイラストを参照)。つまり4Dプリンティング技術では、3Dプリンティング+時間・やわらかさが鍵で、そのベースには、さまざまなやわらかい材料を扱える3Dプリンティング技術が不可欠となる。
古川教授は長年にわたり、やわらかい材料であるゲル材料、特に先進的ゲル(ハイドロゲル)材料の三次元自由造形が可能な3Dゲルプリンターの開発に携わり、手術練習用のモデル造形など医療分野をはじめさまざまな分野に適用を広げるとともに、ゲル材料と親和性が高い食べ物を三次元自由造形できる3Dフードプリンターの開発にも成功している。
ものづくり大国・日本の技術力をもってしても、一つの新材料を開発するには約30年がかかると言われているが、「やわらかものづくり」を提唱する古川教授は、新しい素材を試してデータを取得できる3Dプリンティングを用いることによって開発期間を3カ月に短縮することを掲げ、「やわらか3D共創コンソーシアム」という組織を2018年に立ち上げ、大学や企業の垣根を超えて、「やわらかい材料」の研究・開発と知見の共有に取り組んでいる。
並行して、誰もが自由に3Dプリンターを扱えるようになるよう、3Dゲルプリンターの社会実装プログラム「GelPiPerアンバサダー」(図2)を推進している。やわらか3D共創コンソーシアムに参加する食品や医療、ゲル、モビリティ、ロボットなどのさまざまな企業や共同研究機関に3Dゲルプリンター「GelPiPer mini」とゲルインクを貸し出し、ユーザーのニーズや使用感といったフィードバックを得て、最終的には3Dゲルプリンターの改良や高分子ゲルのニーズを発掘するというGelPiPerアンバサダープログラムを通じて、やわらかものづくりの出口戦略の共創に取り組んでいる。
3.異種材料に対応した安価な3Dゲルプリンターの開発プロジェクト
多くの材料研究者や機械工学研究者が利活用可能なソフト材料の3D/4Dプリンティングを推進できる「革新的異種柔軟材料3D/4Dものづくり基盤の構築」に取り組む一方で、4Dプリンティングの基盤となる3Dゲルプリンティングの医療や食品などでの適用が進めやすくなるよう、異種材料に対応した安価な3Dプリンターの開発プロジェクトも始めている。
生体組織や細胞などの生体材料を三次元的に積層して造形するための装置「バイオプリンター」は、3Dプリンターの技術を応用し細胞や生体材料を三次元的に配置することが可能となっており、再生医療や組織工学の分野で広く活用され組織や臓器の再生、薬物の効果評価、疾病の研究などに大きな可能性を持つが、その一方で研究段階で使うヨーロッパの3Dバイオプリンターは1億円程度と高額であり、そうした高価な3Dプリンターを導入できる日本の大学の研究室は数えるほどしかない。
そこで古川教授は、高い性能は追求せず、研究に使えるようなミニマムな性能の3Dゲルプリンターを地元のものづくり企業と製造し、1/30の価格帯、約300万円から販売したいと企図。リクエストに応じたカスタマイズとノウハウの提供で高付加価値化した3Dゲルプリンターを製作すべく、おきたまものづくりネットワーク協議会の加盟企業と山形県工業技術センター置賜試験場とともに「OMNYU(オムニュー)」商品化プロジェクトを開始した。おきたまものづくりネットワーク協議会の略称OMNと山形大学の略称YUを組み合わせて、やわらかくて「むにゅ」っと変形するものづくりを目指すプロジェクト名として、OMNYU(オムニュー)という名のプロジェクトが生まれた。
OMNYUプロジェクトの参加企業は、おきたまものづくりネットワーク協議会に加盟する秀機(青野秀夫社長、営業品目:半導体製造装置、精密部品加工・組立、省力機械)、島津鈑金製作所(島津 薫社長、営業品目:工作機械・産業機械・IT関連機器の製作、鉄道車両部品の製作、溶接加工、精密鈑金加工、レーザー加工、塗装品・各種めっき処理品・アルマイト処理品)、ミユキ精機(島倉邦広社長、営業品目:光関連機器事業、メカトロニクス組立事業、アミューズメント事業、貼合・レーザー加工等加工事業、実装事業)、岡村工機(岡村 茂社長、営業品目:機械加工による精密部品製造、販売)と、近く愛和ライト(岩田 潤社長、営業品目:プラスチック成形品の受託製造、射出成形用金型の設計・製作、遊技機用部品の企画開発・製造、木材改質、木製品の企画・加工・製造、半固体リチウムイオンバッテリーの販売)の5社。
同じくプロジェクトに参画する山形県工業技術センター置賜試験場はまた、新技術をアドバイスする機能、共創の場を提供する機能もあることから、山形大学古川研究室とタッグを組んで、地元のものづくり企業との取り組みを後押する。
そのOMNYUプロジェクトにおいてこのほど、やわらかPCポンプ(特許出願中、プログレッシブキャビティポンプ)と紫外線レーザーを組み合わせた幅23㎝、奥行き28㎝、高さ39㎝の小型タイプの3Dゲルプリンター「OMNYUプロトタイプ1号機」(図3)を製作した。ゲルだけにとどまらず、食品やバイオインクも使えることを想定した3Dゲルプリンターで、3Dゲルプリンターのヘッドには古川研究室で特許申請したスクリュー式を活用している。
山形大学古川研究室が開発した、液体を送るための特殊なポンプ「やわらかPCポンプ(プログレッシブキャビティポンプ)」(図4)は、回転するらせん状の軸(ローター)とそのローターに差し込まれる、やわらかいらせん状の軸受(ステーター)からなる構造を持つ。液体を送る際には、ローターのらせんとステーターのらせんによって形成される空間(キャビティ)が、ローターの回転によって移動し、液体を送る力となる。このポンプは、粘性の高い液体や固形物を含む液体など、従来のポンプでは扱いにくい液体を送るのに適している。
OMNYUプロジェクトでは、今後の展開と商品化の実現に向け、3Dゲルプリンターの量産体制を整え、迅速かつ効率的な製造の実現を目指す。
4.今後の展開
山形大学古川研究室では、やわらか3D共創コンソーシアムやOMNYUプロジェクトなどを通じた3Dゲルプリンターの出口戦略の共創を進めながら、「NEDO先導研究プログラム/マテリアル・バイオ革新技術先導研究プログラム※」の研究開発テーマ「革新的異種柔軟材料3D/4Dものづくり基盤の構築」において、4Dプリンティングやソフトロボティクスの研究の前提となる3Dプリンティングの異種材料への対応を進めつつ、多くの材料研究者や機械工学研究者が利活用可能なソフト材料の3D/4Dプリンティングを推進できるプラットフォームの構築を進めていく。
※2023年度以降は「新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム」に統合