東レは、独自の膜設計および膜形成技術の追求により、従来対比で大幅な低コスト化を実現する超ハイバリアフィルムを開発した。フレキシブルデバイスや太陽電池の封止など、高いバリア性が求められる様々な用途への展開に向け、2023年の実用化を目指す。
スマート社会の構築に向けたIoT技術の急速な発展により、ウェアラブル生体センサやフレキシブルディスプレイなどのフレキシブルデバイスの需要がますます大きくなることが予測されている。また、カーボンニュートラル実現に向けた世界的な潮流から、再生可能エネルギーやエネルギーハーベスト(身の回りにある光や熱、振動などの様々なエネルギーを変換して、電力を得る技術)が注目され、有機薄膜太陽電池やペロブスカイト太陽電池の需要の拡大も予想されている。
これら用途に使用される有機デバイスや化合物は水分に弱く、封止・保護する必要がある。従来封止には、欠陥のない高密度な薄膜形成が可能なスパッタ法(真空中で不活性ガスを導入、プラズマを発生させた後にターゲット表面に高速で衝突させることで、ターゲットを構成する成膜材料の粒子を叩き出し、基板表面に堆積させる物理蒸着(PVD)法)や物理蒸着(CVD)法(ガス状の気体原料を送り込み、熱、プラズマ、光などのエネルギーを与えて化学反応を励起・促進して薄膜を基板表面に堆積させる技術)によって作製した超ハイバリアフィルムが使用されていたが、いずれも成膜速度が遅く高コストのため、用途拡大が課題となっていた。
東レでは今回、、スパッタフィルムの開発で培った高密度な複合化合物膜の設計技術を、食品包装用バリアフィルムなどに用いられる高速蒸着技術に適用することを可能とし、スパッタ法やCVD法と同等レベルの水蒸気透過率10-3[g/m2・day]という高いバリア性能を達成した。この超ハイバリア・蒸着フィルムは、成膜速度が一般的なスパッタ法対比100倍以上となり、コストも1/5以下に抑えられる。また、本開発品は、透明性や柔軟性にも優れるため、各種フレキシブルデバイスや太陽電池に展開可能で、IoT市場の拡大やカーボンニュートラルな社会の実現にも貢献することが期待できる。