第44回:テクニスト研究会が開催

2020年03月13日(金曜日)

 技能継承支援機構が主宰運営するテクニスト技術研究会は3月5日、東京都板橋区のMIC-2(板橋区立研究開発連携センター第二ビル)で、「第44回:テクニスト研究会」を開催した。

開催のようす
開催のようす

 

 技能継承支援機構は、我が国の国力の維持・充実、国際競争力の強化、持続的な発展を確固たるものにする上で不可欠な、ものづくり技術・技能の継承の支援を様々な側面から行う活動の中核的役割を果たしている。今回開催されたのは、技能継承方法のサイエンスを目指す意味から、「テクニシャン」と「サイエンティスト」を融合させた造語「テクニスト(TECHNIST)」を冠した研究会で、11年目を迎える。


 当日はまず大森 整・技能継承支援機構長(理化学研究所 主任研究員)が開会の挨拶に立ち、「本技術研究会は、NEDOのプロジェクトとして、技能継承方法を科学的・システマティックに進めるテーマで、産業技術総合研究所(産総研)との共同研究を始めたことに由来する。職人の持つものづくりの技を可視化し、若い人がその工程指示書に倣うことで早期に同等の技術・技能を実現できるように、“技術・技能の継承・共有化ツール(加工テンプレート)”を開発した。プロジェクトにおけるそうした成果の普及を目的に技能継承支援機構が発足。情報発信型のサポートとして本機構が主宰運営する本技術研究会は、特に継承が難しい技能の見える化、難加工・複雑形状の研削・研磨・切削工程、特殊表面処理工程および成形工程に関わる加工技術などに焦点を当てて話題提供を行う研究会を、年4回開催している。そのほか、産総研側からの話題提供として1月に技能継承フォーラムを実施している。近年では3Dプリンティングやインプラントなどの先端的な医療分野など、トピックスが広がってきている。本日は二人の講師から脳科学、トライボロジーの各テーマで講演をいただく。いずれも非常に難しい問題を包含した異分野と言えるが、こうした新しい分野とのコラボによってものづくり技術が進化し、またその技術・技能の継承の手法確立が一層進むことを期待している」と述べた。

挨拶する大森氏
挨拶する大森氏

 

 続いて、以下のとおり講演がなされ、それぞれ活発な質疑応答がなされた。
・「三つ子の魂は百まで?脳科学で理解することわざの意味」下郡智美氏(理化学研究所 脳神経科学研究センター)…神経回路の基本的な仕組みとしては、軸索(アクソン)が伸びて軸索末端のシナプスが棒状突起(デンドライト)とつながることで情報伝達が行われる。子供の脳はやわらかく、最適な回路を作るためにつなぎ変えが起こるが、このつなぎ変えは大人ではあまり起こらない。経験によって神経細胞の活動が変化するが、どこからの入力が活動を変化させるのかを明らかにするため、神経接続を可視化する技術を開発した。また、神経活動が変わると樹状突起の形が変わるが、特定の神経細胞の形を変える分子の同定に成功した。経験によって影響を受ける神経回路は異なり、分子メカニズムも異なる。そこで脳の中で発現している遺伝子を網羅的に調べておいて、そのカタログを世界中で利用してもらうべく、コモンマーモセットの遺伝子発現カタログを世界で初めてネットで公開している。
 

講演する下郡氏
講演する下郡氏

 

・「血液中における超低摩擦実現のための摺動面設計」神田航希氏(東北大学大学院 工学研究科)…体内植込み型連続形式遠心ポンプ左心補助人工心臓では、遠心ポンプが羽根車をモータにより回転駆動させ、発生する遠心力によって血液を左室心尖部より吸引し人工血管を介して上行大動脈へ駆出する。回転軸の血液のシールには滅菌水が循環してシール部を冷却するシステムのメカニカルシールが用いられ、シール摺動面となる二面にはセラミックスが用いられ、摺動面における摩擦制御が機器の性能向上のための鍵を握る。シール流体である血液に含まれる血漿タンパク質は摺動面に吸着し、その状態によって摩擦を増加・低減しうる。そこで、摺動面における表面処理により血漿タンパク質を理想的な状態で吸着させ、血液中において非常に低く安定した摩擦を得ることに成功した。

講演する神田氏
講演する神田氏

 

 講演に続いて、MIC-2内にある理化学研究所大森素形材工学研究室 板橋分室の施設見学会が行われ、ナノファブリケーションからバイオファブリケーションに関わる新開発の各種設備が披露された。
 新開発の「ツインノズル式バイオプリンター」を披露。細胞の足場となるスキャホールドと細胞のパターニングを繰り返し、スキャホールドと細胞を多層積み上げることによって三次元構造を有する細胞組織の作製試験を行う装置である。現モデルは2ノズルを搭載しているが、4ノズルまで搭載・制御できる。

ツインノズル式バイオプリンター
ツインノズル式バイオプリンター

 

 また、オンデマンド加工システム(通称、ピコマックス)に新開発のAI機能搭載型加工条件適正化システム「サイバーマイスターシステム」を付加して、加工デモンストレーションを実施した。加工時のトルクならびに回転数をセンシング、トルクが増えた際には加工速度を自動的に落とすが、速度を落としても消費電力が下がらない場合には、切込み量を自動で小さくする。こうして、ある工具を用いてある材料を加工する際の最適パラメータを機械学習し、次回からは同じ材料と工具の組み合わせの加工においては設定不要で、最適パラメータでの高品位加工が実現できる。

新開発のAI機能搭載型加工条件適正化システム「サイバーマイスターシステム」を付加したオンデマンド加工システム
新開発のAI機能搭載型加工条件適正化システム「サイバーマイスターシステム」を付加したオンデマンド加工システム