散乱研究会(事務局:大塚電子)は11月22日、東京都台東区のHULIC HALLで、「第31回散乱研究会」を開催した。
光散乱法は1944年のデバイの論文を契機に高分子やコロイドの研究に応用され始め、その後1940年代後半にジムらが高分子溶液の光散乱測定を始め、高分子溶液物性の主力研究の手段となり、日本でも1960年頃から光散乱測定装置の開発が始まった。ところが、光散乱法を利用するには散乱理論の知識が不可欠で、またその測定も容易でなかったため、装置の普及はそれを専門とする大学や一部の企業の研究室に限られていた。
そうした状況下で、この光散乱法を一人でも多くの人に知ってもらおうと、加藤忠哉氏(当時、三重大学教授)を中心とした世話人の熱意と、我が国の光散乱測定装置メーカーの草分けである大塚電子の支援により「散乱研究会」が1989年に発足、第1回研究会が東京で開催された。
31回目となる今回の研究会は、柴山充弘氏(東京大学)と佐藤尚弘氏(大阪大学)、岩井俊昭氏(東京農工大学)、木村康之氏(九州大学)を世話人として、大塚電子の散乱製品の紹介・展示会を含めて、以下のとおり開催された。
・光散乱基礎講座「電気泳動光散乱の基礎」木村康之氏(九州大学)…コロイドの分散安定性の指標となる重要な物性量値であるゼータ電位を測定する代表的な方法である電気泳動光散乱法について、その背景となるコロイドの電気的物性、光散乱法の基礎を含めて解説した。さらに、従来の測定法では加える電場として直流あるいは低周波数の交流電場が用いられてきたが、その発展として広い周波数範囲での電気泳動易動度測定を可能にする交流電気泳動易動度測定系による希薄コロイド溶液の測定事例や、ホログラフィック顕微鏡を用いた交流易動度測定についても紹介した。
・「ハイドロゲル微粒子の機能化と界面動電現象」鈴木大介氏(信州大学)…水で膨潤したハイドロゲルからなるコロイド粒子(ゲル微粒子)に関する、鈴木氏らの最近の研究成果について発表した。特に、ゲル微粒子の界面動電現象に着目し、実験値の解析より得られるパラメータについて議論した。
・「銀ナノインクを用いた超高精細配線印刷と散乱計測」長谷川達生氏(東京大学)…近年、印刷技術を電子デバイス製造に応用するプリンテッドエレクトロニクスの研究開発が盛んに行われている。中でも、銀ナノ粒子(直径約13nm)を高濃度かつ安定的に分散させた特殊な低温焼成性の銀ナノインクを用いると、「表面化学吸着効果」という新しい機構のもとで、線幅1μm以下の超高精細かつ高伝導性の銀配線の簡易な塗布形成が可能なことが明らかになってきた。高濃度な銀ナノインクが表面反応性と分散安定性を示す不思議な機構と、これを明らかにするための共焦点動的光散乱による銀ナノ粒子の凝集状態の経時観測について解説した。
・「高分子の構造解析に有用な小角光散乱法について」牟田口綾夏氏(大塚電子)…小角光散乱法は、結晶構造やポリマーブレンド等の相構造・異方性を手軽に評価できる。今回はその基礎原理から代表的な測定例までを一挙に紹介した。
・「DLSをより良く使うために」及川英俊氏(東北大学)…DLSは高分子溶液のダイナミクスや微粒子の粒子径解析に威力を発揮する計測手法である。誤った測定結果や解釈を回避するために、測定原理にあらためて立ちかえりながら、留意事項を織り交ぜて、幾つかの事例を紹介した。